これまでで半導体とはどのような物質を指すのか説明しました。しかしまだまだ私の研究の核には至りません。
次は半導体デバイスについてご紹介します。今回と次回で、代表的な半導体デバイスの動作原理を説明いたします。
半導体デバイスって何?
半導体デバイスとは半導体を使って作製された電子部品のことです。そのまんまですね。電子部品は電気抵抗や電源、スイッチなど、電子回路を構成する部品のことです。
電子部品によく使われる半導体デバイスといえば、ダイオードやトランジスタでしょうか。これら半導体デバイスは主に電流の制御を担います。
ちなみに私が研究してきた半導体デバイスはMOS型電界効果トランジスタと呼ばれる半導体デバイスです。
まずはじめに、これまでのおさらいと言葉の定義を行います。
半導体の定義としては、「ドーピングできるかどうか」を使用するのがよさそうだということがわかりました(私の研究①)。
ドーピングすると伝導電子が増える、あるいは価電子が足りなくなり、その結果電気伝導度に変化が生じるのでした。
伝導電子の増加は負電荷の増加にあたります。電子の電荷は負ですからね。価電子が足りなくなるのも簡単に考えたいものです。そこで、ひとまずは価電子の不足を正電荷の増加と考えることにしましょう。
たとえば、Si結晶にP原子を添加すると負電荷が増え、B原子を添加すると正電荷が増えるということになります。そして、半導体に添加することで負電荷を増やすような不純物をドナー、正電荷を増やすような不純物をアクセプタと呼びます。
Siに対してはPがドナー、Bがアクセプタですね。
また、不純物原子は半導体の中でイオンになります。たとえば、ドナー原子は電子を放出する(電子を失う)ので陽イオンになります。その一方、アクセプタ原子は電子を受け取ってアクセプタ陰イオンになります。
そして、ドナーを添加して負電荷が増えた半導体をn型半導体、アクセプタを添加して正電荷が増えた半導体をp型半導体と呼びます。
nは負を意味するnegativeの頭文字、pは正を意味するpositiveの頭文字です。増えた電荷に対応して型が変わるのですね。
また、ドーピングされていない半導体は真性半導体と呼ばれます。真性半導体中の電子はほとんどすべて価電子(強力な接着剤)として働くのですが、光の照射や加熱で伝導電子に変わることも可能です。
さて、以上の話は次のようにまとめられます。半導体はドナー原子やアクセプタ原子を添加することで、真性半導体からn型半導体とp型半導体へと変わります。
なぜ今更半導体について確認したのかと言いますと、半導体デバイスはn型とp型の半導体の組み合わせで作られるからです。また、大事なことは何度でも確認したいものですしね。
半導体デバイスは役割や動作原理でざっくり分ければダイオードとトランジスタに分けられます。
- ダイオード
- トランジスタ
冒頭でお話した通り、私の研究対象はMOS型電界効果トランジスタでした。ですので、すぐにでもその解説をしたいのですが、半導体デバイスの特徴を知るにはまず先にダイオードの説明が良いと思いました。MOSFETは次の回でご紹介します。必ず、ご紹介します。
- ダイオード
ダイオード(diode)はp型とn型をつなぎ合わせる(接合する)ことで作製される半導体デバイスです。最も単純な構造をした半導体デバイスとも言えます。ダイオードの役割は整流作用と呼ばれます。一方向にしか電流を流さない電子部品として皆さんもご存知なのではないでしょうか。
その仕組みをこれからお話しします。
ダイオードを作ると、p型とn型の接合部周辺でn型半導体の伝導電子がp型半導体の価電子の欠乏部、言い変えれば電子の“穴”をめがけて流れ込みます。
そのままn型半導体の電子がすべてp型へ流れ込む……わけではないのです。p型半導体にはアクセプタ原子が入っており、n型から流れ込んだ電子を受け取って陰イオンになります。
電子は陰イオンから反発する電気力を受けるので、伝導電子の一部が流れ込んだところで電気的な力に均衡が生じます。その結果、電子の量に勾配ができます。
さて、p型半導体とn型半導体を接合すると電子の量に勾配が生まれました。電流を流すためには、外から力を加えてこの均衡を崩す必要があります。放っておいたらずっとこのままですからね。
ここで言う「力」とは電子を動かす力、すなわち電圧のことです。電圧をかけて電子の均衡を崩すのです。
さあ、電圧をかけて電子をp型半導体へと押しやってやりましょう。陰イオンの反発力を超える電圧をかけると、電子がp型半導体へ広がると同時に勾配は緩やかになり、全体的に電子の量が増えます。
電子が電圧によってp型半導体へ押しやられ、p型半導体の端に達したとき、電流が流れ始めます。
それでは、電子をn型半導体へ押しやるような電圧をかけるとどうなるでしょうか。この場合、電流は流れず、電子量の勾配が険しくなるだけです。
つまり、ダイオードに電流を流すとき、電圧をかける方向には気を付けなければなりません。必ずn型からp型の方へ電子を押しやるような電圧のかけ方(n型にマイナス、p型にプラスをかける)をしなけなければならないのです。
電子がn型→p型へ動くような電圧のかけ方を順方向電圧、p型→n型へ動くような電圧のかけ方を逆方向電圧と呼びます。
順方向電圧をかけることで電子が動き、ダイオードに電流が流れるようになるのです。そして逆方向電圧では電流は流れません。
以上をまとめると次のように言えます。電圧をかける方向によって電流の流れる方向を制御する。これがダイオードの整流作用です。
さて、ダイオードの動作原理をご説明しました。ご理解いただけたでしょうか。
実は上で説明したダイオードの動作原理なのですが、嘘です。嘘と言うか、半分しか説明していないのです。
というのも、電子の量で一律に説明したのですが、p型半導体に出現した正電荷(電子の“穴”)を完全に無視してしまったのです。これはいけません。
アクセプタを添加すると価電子に“穴”が生じることはこれまで説明した通りです。“穴”が出現するとまわりの電子が次々と“穴”に入ることで実質的に電子が移動する。ゆえにp型半導体で電気伝導度が上昇すると説明しました。
しかし毎度電子が穴を伝って動く様子をイメージするのは面倒です。たとえば水中の泡は、空気の穴に水が次々と入り込むことによって動くのですが、それを「おお!水が連続的に動いて空気の塊を運んでいる!」なんて考える人はあまりいませんよね。
この電子の“穴”は正孔あるいはホールと呼ばれます。ホールは英語のhole、すなわち穴です。私が突然「電子の“穴”」なんて言い出すから困惑した方もいらっしゃるのではないでしょうか。こういう理由があったんです!
さて、電子(正確に言えば価電子)の穴はアクセプタ原子を半導体に混ぜることで生じるのでした。この記事の前半で、アクセプタを混ぜた半導体はp型になり、正の電荷を多くもつようになるとお話ししました。p型半導体の正電荷の正体こそが正孔なのです。
正孔を「価電子が抜けた穴」ではなく、正電荷を持つ粒子として扱うといろいろなメリットがあります。もちろん考えるのが楽になりますし、ほかにはアクセプタ陰イオンも「電子を受け取る」ではなく「正孔を放出する(失う)」で説明できますしね。
ついでに言っておきますと、正孔と陽電子はまったく別物です。正孔は電子の集まりに空いた穴、電子の海に生じた泡なのです。陽電子は正の電子です。物知りな人だけ、気に留めてください。
それでは正孔がダイオード内でどう働くのか。正孔は電子とほとんど同じ働きをします。電荷を運ぶ粒子ですから。
唯一異なることは正孔の動く方向は電子と真逆であることです。もちろん、厳密にいえばもっとあるのですけど、今は割愛します。
それ以外は電子と同じです。ダイオードのpn接合の中でどう動くのでしょうか。
順方向電圧の下では、p型→n型方向に流れます。電子と逆ですね。では逆方向電圧では? もちろんn型→p型へ動こうとしますが、勾配を険しくするだけで、動くことはできません。やはり、電子を同じですね。
電子と正孔を同時に考慮すると、ダイオードに順方向電圧をかけたときに電子がn型からp型へ広がり、同時に正孔がp型からn型へ広がります。
つまり、電子・正孔がそれぞれp型・n型半導体へ広がることによって電流が流れるのです。電子がn型→p型へ流れることでp型→n型方向へ電流が流れ(電子の動く方向と電流の向きは逆)、正孔がp型→n型へ流れることでp型→n型方向へ電流が流れます(正孔の動く方向と電流の向きは同じ)。
電子と正孔はどちらも電荷を運んで電流となることから、2つを合わせてキャリア(carrier)と呼びます。
また、p型半導体中の電子・n型半導体中の正孔を少数キャリアと呼びます。それぞれ、総量が少ないから少数だというわけですね。逆にn型半導体中の電子・p型半導体中の正孔は多数キャリアと呼ばれます。
pn接合ダイオードの動作原理を簡潔に言えば、少数キャリアが隣から流れ込んでくることで電流が流れるということになります。
以上でダイオードの説明を終わります。今度こそ、嘘はありません。
ダイオードという最も単純な半導体デバイスの原理と、p型半導体の正孔という概念を理解してほしかったのですが、いかがでしょうか。半導体に興味のある方は正孔と言う単語をぜひ覚えてください。
ちなみに、今回はp型とn型とで接合しているpnダイオードを説明しましたが、ほかにpinダイオードやショットキーバリアダイオードなどなどたくさんあります。動作原理や役割がちょっとだけ違うのですが、基本的には同じものです。
。。。
最後にまた余談をひとつ。ダイオードを流れる電流はオームの法則に従いません。
オームの法則とは電流が電圧に比例して大きくなるという法則でしたね。金属などの導体は主にオームの法則に従います。
それでは、ダイオードの電流は電圧の大きさに対してどのように変わるのか。
まず、電流の大本はキャリアです。キャリアが物質中を移動することで電流が流れます。ということは、電流は物質中におけるキャリアの動きやすさとキャリアの量で決まります。
キャリアの動きやすさは移動度と呼ばれます。昔は易動度(動き易さですね!)と呼んでいました。移動度は導体中ではかなり高く、半導体中ではドーピングの度合い(どれだけドナーやアクセプタを入れたか)で変化します。
また、キャリアの量は導体中では大量にある一方、真性半導体ではほぼゼロで、ドーピングに応じて増えていきます。
さて、pnダイオードでは電圧をかけることで少数キャリアの量が変わるのでした。そしてなんと、半導体中でキャリアは電圧に対して指数関数的に増加するのです。これはダイオードに特有の特徴ではなく、すべての半導体に言えることです。
ドーピングの度合いは後から変えられませんから、ダイオード電流はキャリアの量で決まると言えます。キャリアの量は電圧に対して指数関数的に増加するので、電流も指数関数的に増加します。
とはいっても、もともとの電気伝導度が低いので、導体に匹敵するほど大きな電流は流れないのですけどね。