半導体って何?
私の研究の話をする前に、まずは半導体とはどのような物質なのかをお話したいと思います。
半導体と言えば、シリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)といった物質が有名です。単体だけでなく化合物も挙げれば、窒化ガリウム(GaN)やガリウムひ素(GaAs)も有名でしょうか。
では、なぜ彼らは「半導体」というくくりで呼ばれているのでしょうか。彼らのどういった性質がそうさせているのでしょうか。それを、これから見ていきます。
先に答えを言ってしまうと、「半導体」とは下の3つのうちどれかで定義されます。
- 導体と絶縁体の中間の電気抵抗率を持つ物質
- 異なる原子を混ぜることによって電気抵抗率を変える物質
- バンドギャップを持つ物質
- 導体と絶縁体の中間の電気抵抗率を持つ物質
半導体が何者であるのか、名前を見ればすぐにわかります。半導体とは半分導体な物質です。まあ、もちろんこれだけですととても不親切ですからもう少し説明を……。
まず、導体についておさらいしましょう。導体とは電気をよく通す物質のことです。銅(Cu)や鉄(Fe)、アルミニウム(Al)といった金属や黒鉛などが有名ですね。つまり、半導体は電気の通しやすさで分類される物質であると考えられます。
電気の通しやすさで言えば、もうひとつ大事な物質がありますね。そう、絶縁体です。有名な物質はゴム、石英ガラス(SiO2)などでしょうか。単体で言えばリン(P)や硫黄(S)が絶縁体にあたります。
さあ、「半」導体のもう半分は何なのか、もうおわかりですね。絶縁体です。
さて、「半導体は半分導体で半分が絶縁体」というのはどういうことなのでしょうか。導体と絶縁体を1:1の割合で混ぜると半導体になるのでしょうか。もちろん、そんな単純なことではありません。
正解は「半導体は導体と絶縁体のちょうど中間くらいの電気の通しやすさを持っている」です。
「電気の通りやすさ」では漠然としていますから、電気抵抗率という指標を使うことにしましょう。電気抵抗率とは電気の通しにくさを表します。単なる「抵抗」と「抵抗率」は異なります。たとえば、抵抗は物質の形(電線の太さや長さ)で変わって今います。電気抵抗率は同じ形同じ大きさをした物質を比較するときに用いる指標です。
ちなみに、真逆の指標に電気伝導度というものがあります。電気伝導度は同じ形同じ大きさをした物質に電圧をかけたとき、どのくらい電流をたくさん流すのか?を教えてくれます。
具体的に導体、絶縁体、半導体の電気伝導度を見てみましょう。下の表にそれぞれ代表的な物質の電気伝導度をまとめました。(Wikipediaより引用)
値が小さいほど電気抵抗率が小さいということになります。ここに示している金属たちの電気抵抗率は1億分の1という非常に小さな抵抗率を持っている一方、絶縁体たちはその逆、1億以上の電気抵抗率を持っています。
そして半導体がどの程度かというと、シリコンで4000Ωm、ゲルマニウムで0.69 Ωmという伝導体とも絶縁体ともとれぬ、中途半端な値を持っています。これが「導体と絶縁体の中間の電気抵抗率を持つ」ということなんですね。
ということで、半導体の一つ目の定義をご説明しました。
- 異なる原子を混ぜることによって電気伝導度を変える
前節では、電気抵抗率という指標を使って導体、半導体、絶縁体を定義しました。ここからはさらに踏み込んで、「電気抵抗率がなぜ物質によって異なるのか」という観点から半導体の定義をもうひとつ導入します。電気抵抗率を「電気の流れにくさ」と説明しましたが、電気という表現は大雑把すぎていけません。
ここはきちんと「電流の流れにくさ」としましょう。さらに、もっと正確な表現を使いましょう。電気抵抗率は、「物質中の自由電子の多さ」と「電子の動きやすさ」によって決まります。
電子とは、電気を運ぶ極小の粒子です。電子が動くことによって電流が流れることは皆さんご存知ですよね。実は、電子の役割は電気を運ぶ以外にもたくさんあるのです。そのひとつに原子と原子を結び付けるというものがあります。
たとえば、半導体や絶縁体の中では電子は原子と原子を結び付ける役割を果たし、物質の中を自由に動き回ることができません。電子はがっちりと固まった接着剤となるのです(下図)。
一方で、伝導体の中の電子はゆるい接着剤として働いており、なんと動き回ることができます(下図)。このような電子を伝導電子と呼びます。また、金属中では伝導電子は完全に自由に動き回ることができるので、自由電子と呼ばれています。
さて、半導体と絶縁体は伝導体と異なり自由電子をほとんど持ちません。ほとんど、ということはいくらかは持っているのですが……どうにかしてこれを増やすことはできないのでしょうか。
半導体ではできるのです。動き回る電子を増やすことができます。コツは、電子をひとつだけ増やす、あるいは減らすことです。半導体としてシリコンを例にとってお話しましょう。
突然ですが、シリコンは周期表にて14番目に出てくる原子です(下図)。ゆえに電子を14個持っています。そのうち4個を使ってほかのシリコン原子と結び付き、結晶を作ります。
そんなシリコン結晶に、電子を15個持っているリン(P、周期表でシリコンの右隣)を混ぜたらどうなるでしょうか。答えは「電子がひとつ余る」です。この余った電子がシリコン中を動き回ることで、電気伝導度に変化が生じます。
それでは逆に、電子を13個しか持たないホウ素(B、周期表でシリコンの左隣)を混ぜるとどうなるでしょうか。今度は「電子がひとつ足りなくなる」のです。足りない分は周りのシリコン原子から電子を奪って補います。すると、そこでもまた電子が足りなくなるので、周りの電子を奪って補います。これが続くと実質電子が動いていることになり、同様に電気伝導度が高くなります。
シリコンとリン、ホウ素で説明しましたが、ほかの物質でも同じことが起こります。シリコンではなくゲルマニウムでもよいですし、リンやホウ素ではなく、アルミニウムや窒素でもよいのです。肝心なのは、メインの原子と電子の数がひとつだけひとつだけ異なる原子を混ぜるということです。
このように、半導体に異なる原子を混ぜて電気伝導度を変えることを、ドーピングと言います。あまり良い表現ではありませんね…。しかし日本語では不純物添加です。どちらにしろ、あまり人前では口に出したくない表現ですね。困ったものです。
ということで、半導体の定義二つ目も説明しました。
今ではドーピングできるかどうかで半導体かどうかを決めるのが主流となっています。たぶん。電気伝導度で半導体を判定していたのは昔の話です。
とはいえ、半導体最後の定義「バンドギャップがあるかどうか」も控えております。ドーピングとバンドギャップとどちらをとればよいのか気になりますね。しかし、バンドギャップについてはまた今度です。
私がどんな研究をしているのか説明しきれれるまで続けるつもりですので、どうぞよろしくお願いいたします。
次の記事はこちら。