これは、宇宙のすべてのうち、今解明されている割合です。宇宙には95%も謎が残されています。
宇宙の謎を調べる方法は色々ありますが、私が注目しているのは「宇宙で一番小さい粒:素粒子」。宇宙の謎に迫るにはこの素粒子を精度よく観測する必要があります。世界一精度の良い測定器を作る、私の研究を紹介します。
宇宙の謎に迫る素粒子
上のグラフは、宇宙に存在するモノの割合を表しています。今私たちが発見した物質は、このうちのわずか5%。残りはダークマターとダークエネルギーと呼ばれる未知の物質とエネルギーです。このうち、ダークマターの候補は、まだ見つかっていない素粒子ではないかとも言われているのです。素粒子とは、この世の全てのものを作る素となる粒子のことです。その大きさは1京分の1cm以下。あまり大きさがイメージできないかもしれませんが、原子の大きさを山手線一周とすると、素粒子はその中に落ちている米粒くらいの大きさです。
宇宙の謎を解き明かす加速器実験
それでは、ダークマター候補の素粒子をどのように調べるのでしょうか?素粒子実験の一つに「加速器」を使った実験があります。加速器とは素粒子などを加速させ、衝突させる装置です。素粒子が衝突すると非常に高いエネルギーの塊ができ、そのエネルギーの塊から新しい素粒子が生まれます。このように衝突によって目的とする素粒子を作り出して調べるのが加速器実験です。
そんな加速器実験のうちの一つが「国際リニアコライダー」(以下ILC)実験です。ILCは現在建設が検討されている加速器で、建設候補地は日本の北上山地。電子と陽電子と呼ばれる素粒子同士を、線型の加速器としては世界最高のエネルギーで衝突させます。ILCでの実験において期待されている成果の一つがダークマター発見なのです。
素粒子を見る「目」〜飛跡検出器
ダークマターを発見するためには、非常に精度の高い測定が不可欠です。素粒子を測定する装置は「飛跡検出器」と呼ばれ、素粒子が通った跡を観測することで間接的に素粒子を見ることができます。たとえるならば、飛行機雲を見るようなものです。素粒子の観測方法を具体的に説明しましょう。飛跡検出器で検出できるのは、電荷を持った粒子です。粒子が検出器の中に入ると、検出器の中を満たしているガス分子に衝突して、ガス分子を電子と陽イオンに分けます。電圧をかけるとできた電子が読み出し部に向かって動きます。この電子を測定することで、粒子がどこを通ったか分かるのです。
世界最高精度の飛跡検出器を目指して
ILCの飛跡測定器は、世界最高精度を目指して設計されています。私たちのグループは目標を達成するために検出器の設計の工夫や、読み出しの方法の改善、検出器の中に入れるガスを変えるなど、日々最適な設計を探っているのです。私が今おこなっていることは、最新の試作品を使っておこなった性能試験の結果の整理です。ドイツにあるテスト施設を使い、約1ヶ月間試験をおこなった結果、目標とする性能を達成できそうであると判明しつつあります。
(ドイツでの性能試験の様子)
ILCの「目」が見せる未来
「次のニュースです。国際リニアコライダー、ILCの結果から、ダークマターの正体が解明されました……」このようなニュースが流れるのは、何十年後になるでしょうか。ILCが建設できるかはまだ決まっておらず、建設が決まったとしても結果が出るのはさらに未来です。
私たちの作った検出器を使って得られた結果が宇宙の未知の部分を解き明かすのは、まだまだ先になりそうです。しかし、「この検出器は私が研究したんだよ」そう自分の子どもに言える未来を楽しみにしています。
この記事は私の研究の一部を簡単にまとめたものです。今後の記事で、詳しい内容に触れる予定です。