◆ 原 尚人 先生 『放射性ヨウ素と小児甲状腺がん』
原先生は医学医療系のご所属で、乳腺甲状腺内分泌外科学がご専門の先生です。
「放射性ヨウ素」、「甲状腺がん」など、原発事故と関連してよく使われるキーワードに注目が集まりました。原先生は、これらのキーワードに関して飛び交う情報によって混乱しがちな私たちに、正しい認識と接し方について教えて頂きました。
原発事故に伴う放射線の人体への影響を知る上で、チェルノブイリ事故が大きな示唆を与えると言います。放射線による汚染が拡大したチェルノブイリ地方において、様々な健康被害が引き起こされたと想像されますが、事故前に比べて患者の数が統計的に明らかに増加した病気は、甲状腺がんのみだそうです。
原先生はまず、甲状腺とヨウ素の関係について紹介されました。
体に取り込まれたヨウ素は必ず甲状腺に入ります。そして通常、甲状腺にはある一定量のヨウ素が蓄積されていきます。
ここで、もし放射性ヨウ素が甲状腺に多く蓄積されると、放射線によって遺伝子が傷つけられ、細胞はがん化してしまいます。特に、細胞分裂が活発な小児は大人に比べて、影響を受けやすいそうです。
しかし、ここ日本においては、今後小児甲状腺がんはほとんど増加しないだろう、と原先生は言います。日本人は普段から海産物を多くとっているため、ヨウ素が充足状態にあり、新たに放射性ヨウ素が入ってきても蓄積されることなく流れてしまうことが、理由の一つです。
また万が一、原発事故が拡大し、退避命令が出るような事態になった場合にも、「安定性ヨウ素剤」を飲むことで新たな放射性ヨウ素の蓄積を防ぐことができるそうです。安定性ヨウ素剤が手に入らなかったとしても、昆布や昆布菓子で代替できることは覚えておくといいでしょう。しかし、短期間に何度もヨウ素を摂取することは、逆に効果が減少する「エスケープ現象」を引き起こすため注意が必要なのだそうです。
日本においては、小児甲状腺がんに過剰に心配することはない、というのが結論のようです。チェルノブイリ地方は、海産物をほとんど口にしない地域であり、日本政府が実施しているような汚染地域のミルクの出荷制限も行われていなかったそうです。
一方、ポーランドでは、海に面している土地柄のため、海産物を食べる習慣がありました。そして、政府による安定性ヨウ素の配布やミルクの出荷制限をした結果、小児甲状腺がんは増えなかったことが報告されているそうです。また万が一、小児甲状腺がんを発症したとしても、小児甲状腺がんは出術で完治できるため、決して怖い病気ではないそうです。
原発事故は、依然収束したとは言い切れません。そんな中、氾濫する様々な情報によって、健康面での不安に駆られている人も多いと思います。しかし、遺伝と甲状腺の研究という医学的見地によって裏付けられた確かな主張と、懇切丁寧で分かりやすい説明により、放射性ヨウ素や、甲状腺がんに対する不安を軽減することができたと思います。
(文責:尾澤岬)
◆ 岡田 幸彦 先生 『 「成功するサービス」の開発論理 』
岡田先生は会計学を専門に研究なさっている先生です。今回は研究とは何かについて、そして成功するサービスに関する研究を発表していただきました。
岡田先生はまず、研究とは何かを語りました。岡田先生は一橋大学で社会科学とは何かを身につけ、研究なさっているそうです。まず、研究とは「誰も知らないことを明らかにする」ことであると話します。社会科学では全てが仮説で構成されますが、その仮説も過去を検証するだけではなくこれからの役に立つことが、重要なのだと強調します。
"How many papers do you have?"ではなく"What is your best paper?"が信条であると岡田先生は語ります。そして、2013年現在における岡田先生のbest paperが今回のテーマである「成功するサービス」の開発論理です。
会場ではサービス分野における原価企画のモデル化、そして実証研究をどのように行ったかを明朗な語り口でプレゼンされました。
製造業の常識では「原価を発生させるのは企業であり、価値を発生させるのは顧客である」とされています、サービス業ではそれに加えて「原価に顧客が影響を及ぼし、価値に企業が影響を及ぼす」ことが予想されました。守秘義務があるため具体的な企業名は明かされませんでしたが、岡田先生は自ら立てた仮説を高業績事業者十八社の協力を得て、この予想が実際に成功する企業において共通していることを明らかにしました。
先生は発表においてまだまだこれからも研究を続けていくことを、そして自らが「成功するサービス」の理論に基づいた行動を続けながら活動することを臭わせながら、発表を終えました。
「私はプレゼンテーションの教育を受けていないので、プレゼンテーションの参考にはならないと思う」と話した岡田先生でしたが、内容と熱意を同時に伝えるプレゼンは非常に学ぶところの多いものでした。
『種明かし』
種明かしディスカッションにおいて、「種明かしコース」と「本番コース」のどちらがいいかを岡田先生は尋ねられました。
会場では「本番コース」を希望するものが多く、「本番コース」が実施されました。その詳細はこちらでは書くことが出来ませんが、一端を http://www.sk.tsukuba.ac.jp/new_shako/ から読むことが出来ます。
(シス情・社会工学専攻の若宮浩司さんに概要の執筆をしていただきました)
◆ 逸村 裕 先生 『学術情報・成果発表・オープンアクセス』
逸村先生は図書館情報メディア系で学術情報基盤を専門とされていますが、本講義の担当教員ということでもあり、最後にふさわしいプレゼンとなりました。
本講義を受講している大学院生をはじめとした研究者にとって、研究論文といった研究成果をどうやって公表していくか、またどうしたらよい評価を受けられるかということが問題となっています。
そんな中で評価の指標として誤用されているImpact Factorがあります。
具体例として2012年のImpact Factorは (2010年~2011年にある雑誌に掲載された論文が2012年に引用されたのべ回数) / (2010年-2011年の間に掲載された論文数)として算出されます。
Impact Factorはあくまで学術雑誌の指標であり、研究者に関する評価ではありませんが研究者の指標として誤用されています。さらにまた近年SNSを利用した論文に対する指標など新しい評価指標が新しくつぎつぎと生まれています。
そのため、このような評価指標は本質的に何を表しているのか、どんな意味があるのかしっかりと考えて使わなければなりません
続いて、研究を進めていく上で論文を読むことも重要です、しかし近年、学術雑誌は電子化などの流れから価格高騰が止まりません。大学図書館のような研究者のために学術雑誌や論文を契約する機関にとって非常に厳しくなっています。しかし、一方でオープンアクセスという出版形態が出てきています。オープンアクセス誌は利用者がお金を払うことなく論文にアクセスすることができます。背景に「研究は税金をもとにして行われているのだから、研究成果は国民に無償で公表されて当然である」と意識があります。オープンアクセスにもいくつかの手段があり、大学自体がもっとも身近なものとしては機関リポジトリを挙げることができます。
日本の学術情報流通の観点からみるとオープンアクセスのような情報をオープンにしていくことや研究に使われたデータを共有することに関して海外と比べ動きが遅いのが現状です。こういった学術情報が爆発的に増えていく中でこれから学術情報やその流通がどうなっていくのか研究者である私たち自身が考えていく必要があると最後には強く訴えかけられていました。
研究分野に関わらず共通する研究成果をどうやって世に出していくかという問題を改めて考えさせられるプレゼンとなっていました。
また、発表時間15分ジャストで終了し、1秒も誤差の無い時間配分はみごとでした。
逸村先生のプレゼンは仕掛けや種がある、聴衆を飽きさせないプレゼントで、ストーリがしっかりとあるので、あっという間に時間が過ぎてしまいました。
(文責:野沢健人)