◆中園長新先生 『 「いま」を生きるための情報教育 』
[プレゼン発表]
中園先生は、教育学域で「情報教育」に関する研究をしている先生です。正確には教員という立場ではありませんが、TGN独自の学内調査で、非常にアクティブな方であるという情報を受け、この度プレゼンターをお願いしました。
情報教育と聞くと、中高生時代に受けたエクセルやパワーポイントなどの実習を思い出す人が多いと思います。しかしながら、パソコン操作の実習が情報教育の現場で主要なテーマとなっているのは、現代だからに過ぎない、と中園先生は言います。パソコンの全く無かった戦国時代であれば、のろしの回数を数えることが情報教育の重要な役目かもしれません。このように、パソコン・ケータイなどの機器の使い方や、現代という時代を離れて存在する、情報教育の本質について中園先生は模索されています。
では一体、情報教育の本質とは何でしょうか?それは、コミュニケーションに行きつくのではないか、と中園先生は考えているそうです。このことを、次の巧みな例えで説明されました。
カップ麺の作り方を初心者に教えたいとします。すると多くの人が、1. お湯を沸かす、2. フタを開ける、3. お湯を注ぐ、4. ・・・。というように作り方を伝えると思います。しかしながら実際には、フタを開ける前にビニールをはがすことが必要です。また、ラーメン系または焼きそば系であるかによって、ソースを入れる順番が重要になってきます。この例から分かるように、現実にやり取りされる情報には多くの「行間」が存在します。情報過多と言われる現代ですが、生きていくためにはこの行間を読み取る能力が必要とされます。そして、この能力を鍛えることが情報教育の重要な役目ではないかと提案されました。
中園先生は、今年度のプレゼンターの方々の中では抜群に若く、エネルギッシュな発表をされました。特にカップ麺の件では、会場にカップ麺を持参し、ビニールを破るアクションをされたことが、非常に印象に残りました。情報がデジタルに伝えられることが多い中で、実世界に実物を導入して伝えることに、大いにリアリティを感じました。仮想世界の台頭で見失われがちな情報教育の本質を、ある種体現しているようなプレゼンでした。
また中園先生は、プレゼンの補足を先生自身のホームページに掲載してくださっているようです。こちらもご覧ください。http://zono.e4serv.net/weblog/
[質疑応答]
質疑応答では、異分野間のコミュニケーションらしい議論が繰り広げられました。特に白熱したやりとりを紹介します。
Q. なぜ現状では、高校などでの情報教育は、パワーポイントやエクセルの使い方を教えるといったパソコン教室化してしまっているのか。(畜産を専門に研究している大学院生)
A. このようなありきたりの情報教育になってしまっている理由は二つある。一つは、教える側の専門性にある。情報教育について専門的な指導ができる高校教員は少ない。もう一つは、実社会で即戦力となる人材を育成することが要求されているため、実社会で役立つパソコンスキルの習得が早急に望まれているからだと思われる。
Q. とは言うものの、個人的には高校でのパソコン教育は非常に役に立っている。それを変える理由はあるか。(植物育種を専門とする大学院生)
A. パソコンスキルだけでなく、情報化社会が持つ闇の部分も知る必要があると思う。例えば、なぜfacebookが無料であるか、といった知識も今後生きていく上で必要であると思う。
[種明かしディスカッション]
種明かしディスカッションのコーナーでは、プレゼン発表の極意や、気を付けていることなどを教えてもらったり、根掘り葉掘り質問攻めにするコーナーです。毎回、目からうろこの情報ばかりですが、これは実際会場に来て聴講した人の特権ということで、ここでは公表しません。
◆金久保利之先生 『 コンクリート構造物の地震被害とその対策 』
[プレゼン発表]
金久保先生は、コンクリートの構造や強度に関する研究を専門にされています。近年の地震による建物の被害を受け、今後の地震に対する備えはますます重要になってきています。そんな中で、今注目されている金久保先生にプレゼンをお願いしました。
まず金久保先生は、東日本大震災で倒壊した建物の写真を紹介されました。メリハリの利いた文字だけのスライドで発表された中園先生とは対照的に、写真中心の構成で話を展開されました。完全に潰れてしまった日本家屋や、天井がごっそり落ちてしまった体育館が、地震に対する建物の脆弱性を物語っていました。東日本大震災では、原子力や津波による被害が大きく取り上げられていますが、ここ茨城県では、地震の揺れによる建物への直接的なダメージが主要な被害の形態だそうです。今後も油断できない大地震への備えとして、地震の揺れに耐えることのできる建物が望まれます。
ところで、そもそも建物が壊れるのはどうしてでしょうか。金久保先生は、原点に立ち返った疑問を聴衆に投げかけました。率直に考えると、「建物の強度を地震の強さが上回ったから」、と結論したくなります。実は、「重力」の影響が大きいそうです。このことを、円柱とおもりでできた模式図を用いて説明されました。地面に立てた細長い円柱の先に、おもりをバランスよく乗せます。いざ地震が来て横揺れが起こると、円柱はたわみます。するとおもりに働く重力を支えきれなり、倒壊します。重力が建物に与える影響は、非常に複雑なメカニズムのようですが、単純化された模式図を導入したことで、大づかみに理解することができました。
プレゼンの最後に、金久保先生の実際の研究タイトル「鉄筋コンクリート構造の耐荷性状と変形性能」を宣言されて発表は終わりました。つまり、金久保先生は、自身の研究内容には触れず、発表の15分を全てイントロに割り当てました。金久保先生曰く、「発表タイトルが理解してもらえれば充分」、とのことです。このプレゼン構成には驚きましたが、質疑応答の際に受講生から踏み込んだ質問が数多く出ました。つまり、「掴み」は大成功だったようです。異分野向けのプレゼンの場で、聴衆とのインタラクションを活発にするには、今回の金久保先生のようなスタイルが有効ではないでしょうか。
[質疑応答]
質疑応答では、異分野間のコミュニケーションらしい議論が繰り広げられました。特に白熱したやりとりを紹介します。
Q. 今回の地震で、実家の建物が倒壊してしまった。原因は地盤沈下だったようだ。もうこのような経験はしたくないので、将来土地を買う時の指針のようなものを教えてほしい。(システム情報工学研究科の大学院生)
過去に川・沼・池であった土地は液状化現象が起きやすい。地名に川や池が付く場所は昔そうであった場合が多い。より詳しく調べたい場合は、国土地理院に行って昔の地図を調べればよい。
[種明かしディスカッション]
種明かしディスカッションのコーナーでは、プレゼン発表の極意や、気を付けていることなどを教えてもらったり、根掘り葉掘り質問攻めにするコーナーです。毎回、目からうろこの情報ばかりですが、これは実際会場に来て聴講した人の特権ということで、ここでは公表しません。
◆三谷純先生 『 コンピュータが拓く新時代の折り紙設計 』
[プレゼン発表]
三谷先生は、コンピュータグラフィックスが専門の先生です。今回の発表では、コンピュータによる折り紙の設計についてプレゼンして頂きました。私たち日本人にとってなじみ深い折り紙ですが、その歴史は古く、1797年には折り鶴の様々なバリエーションをまとめた文献が刊行されているそうです。このような伝統ある折り紙と、コンピュータの接点はどこにあるのでしょうか。
折り鶴を、もう一度平坦な紙に展開してみましょう。すると、山・谷の折れ線によってできた複雑な幾何学模様が見えます。そして再度、山・谷の線に従って折り込むと、さきほどと全く同じ折り鶴が再現できます。つまり、折り鶴と山・谷の折れ線の幾何学的パターンは一対一に対応します。そして、このような幾何学的なパターンの処理はコンピュータが得意とするところです。ここが折り紙とコンピュータの接点のようです。誰もが驚くような、複雑で美しい構造を折るのは、折り紙の熟練者でないとなかなか折れません。そこで三谷先生は、誰でも簡単に複雑で美しい立体的構造を折ることができる折り紙ソフトウェアを開発しました。プレゼン発表では、ソフトウェアの実演と、完成した実物を披露されました。このようなコンピュータを駆使した折り紙設計では、一見難しい曲面的な構造さえ折ることができるそうです。
以上の折り紙研究の反響は大きく、ファッションショーで使用されたり、数学の教科書の表紙にも採用されたそうです。また、「ものをコンパクトに畳む」という応用性が人工衛星のソーラーパネルをはじめ、多くの分野で注目されているそうです。
三谷先生は、研究内容もさることながら、流れるような口調から圧巻のプレゼンを披露されました。プレゼンスライドは、「最初と最後が一番見られる」という考えから、最初のスライドにtwitterのアカウント「@jmitani」を表示されていました。今回のプレゼンバトルを機にフォロワーを30人くらい増やしたいとのことです。みなさんもフォローしてみてはどうでしょうか。
[質疑応答]
質疑応答では、異分野間のコミュニケーションらしい議論が繰り広げられました。特に白熱したやりとりを紹介します。
Q. 折り紙の世界では、紙を切るのは御法度か?(構造エネルギー専攻の教員)
A. 折り紙の定義はいろいろあって、研究者によってまちまちだが、私は切らない流儀で研究している。しかし一方で、紙のかたちは自由に選んでいる。
Q. そのように折り紙の定義が様々だと、定義によって性質に違いが表れそうだ。(構造エネルギー専攻の教員)
A. その通りだ。例えば、切り目を入れる/入れないの流儀の違いで、応用性が変わってくる。防塵カバーの折り方をデザインしたい場合、切り目を入れない流儀でデザインしないといけない。
[種明かしディスカッション]
種明かしディスカッションのコーナーでは、プレゼン発表の極意や、気を付けていることなどを教えてもらったり、根掘り葉掘り質問攻めにするコーナーです。毎回、目からうろこの情報ばかりですが、これは実際会場に来て聴講した人の特権ということで、ここでは公表しません。