教員プレゼンバトル2013 第五回講義概要

◆生稲史彦先生 「開発生産性のディレンマ」

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[プレゼン発表]

生稲先生は経営学の専門家です。今回は、生稲先生が取り組んでこられた、ゲームソフト企業を対象とした研究についてプレゼン発表をされました。

生稲先生が学生だった頃は、ちょうどテレビゲームが盛んになり出した時代で、生稲先生も、多くの男子学生と同様、テレビゲームにすっかりはまっていたそうです。ゲームを始めた頃は、次々と販売される新作に深い感動を覚えていたそうですが、だんだんと新作に対する新規性や、魅力を感じなくなり、遂にはつまらないと思うようになったそうです。そのため、「なぜ本当に新しいものが開発されなくなったのだろうか?」という疑問を生稲先生は持ちました。そして、この素朴な疑問を経営学の視点で解き明かそう、と思ったのが研究の出発点だそうです。

研究に着手しはじめ頃は、経営学の分野で既に確立しているメジャーな考え方を、そのままゲームソフト企業に当てはめる、という研究スタイルだったそうです。「知識こそが価値の源泉である」という、経営学のメジャーな考え方によれば、開発ノウハウを蓄積していくことこそが、ゲームソフト企業が競争優位を生み出すためのマネジメント法であることが結論されます。

しかし、「本当にそうなのか?」、と生稲先生は思ったそうです。確かに、経営学のメジャーな考え方(cool heads)からすれば、開発ノウハウの蓄積は企業にとって良いマネジメント法かもしれない。しかし実際には、「ゲームがつまらなくなった」、という個人的で確かな感覚(warm hearts)がある。そこで、cool headsではなくwarm heartsを優先し、そもそも経営学のメジャーな考え方を疑ってみる、という方向で研究を仕切り直したそうです。

そして新たに、「イノベーション」という視点で研究を見つめ直し、公刊資料や企業から得られたデータの収集など、地道な実証研究を展開され、遂にたどり着いたのが、「開発生産性のディレンマ」という考え方です。

「開発生産性のディレンマ」とは、開発ノウハウの蓄積を進めていくと、開発活動の効率化と同時に、類似性を優先する戦略に偏重してしまい、「新しいなにか」を創りだすことができなくなってしまう現象だと、生稲先生は言います。企業における開発ノウハウの蓄積なくしては、企業たり得ないことは確かですが、皮肉なことに、その開発ノウハウの蓄積が将来の可能性を狭めてしまうことを、このディレンマは主張します。

十数年かけて構築した理論を、わずか15分のプレゼンで発表するという、(生稲先生曰く)「無理な」発表でしたが、研究内容に対する自信に満ちた一語一句や、力強い身振り手振りから、十数年の研究の重みが十分に伝わってきました。そして、「cool heads」や「warm hearts」など、こだわって選び抜かれたフレーズが、プレゼンの魅力を引き立てており、自身がおっしゃる通り、生稲先生のプレゼンは正に、「総合芸(術)」でした。

 

[質疑応答]

質疑応答では、異分野間のコミュニケーションらしい議論が繰り広げられました。特に白熱したやりとりを紹介します。

Q. 私は一人のゲームファンとして、最近の日本のゲームソフトに新しさを感じない。日本のゲームソフト業界が、世界を驚かせるような、新しいものを開発できる見込みはあるか。(生命環境科学研究科の大学院生)

A. 私の理論に照らし合わせて言うと、新しいものが開発されるためには、企業間の競争ではなく、ゲームソフト業界への他の分野からの参入が必要だと思う。そのためには、ニューカマーを受け入れるような、業界のオープンネスが今後必要になると思う。

 

 

[種明かしディスカッション]

種明かしディスカッションのコーナーでは、プレゼン発表の極意や、気を付けていることなどを教えてもらったり、根掘り葉掘り質問攻めにするコーナーです。毎回、目からうろこの情報ばかりですが、これは実際会場に来て聴講した人の特権ということで、ここでは公表しません。

 

 

◆北将樹先生 「哺乳類の持つ毒の科学」

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[プレゼン発表]

北先生は、有機化学が専門の先生です。生物の持つ毒を有機化学の視点で研究しています。

ハチ、サソリ、フグなどは毒を持つ生き物の代表格ですが、哺乳類にも毒を持つ生き物がいるそうです。それが北先生の研究対象である、トガリネズミの仲間とカモノハシです。

トガリネズミは、主に夜行性でミミズや昆虫を主食にしているかわいらしい動物です。しかし、愛くるしい姿形に似つかわしくなく、唾液に毒が含まれていることが報告されていました。

一言に毒と言っても、その正体は、低分子やタンパク質など様々で、より詳細を知るためには、化学物質として毒を単離し、分子構造を明らかにすることが必要になります。このことこそが、北先生が得意とする、有機化学の出番です。北先生は世界で初めて哺乳類の毒成分の構造を明らかにした、この分野の第一線の研究者です。

化学者の研究現場は、実験室だというイメージがありますが、北先生は実験室だけに留まらず、生態学者とタッグを組んでフィールドに出かけます。今回、日本とキューバの共同研究プロジェクトにより、「ソレノドン」という生態の分かっていない未知の生き物の捕獲と唾液の採取を目指し、キューバまで行かれました。ほとんどソレノドンに関する情報の無い中、遂にソレノドンの個体の捕獲と唾液の採集に成功し、大きな話題となりました。現在このプロジェクトは、得られた唾液から、毒の構造を解析中だそうです。

北先生は、タンパク質の話から、ソレノドンのかわいらしい行動の動画まで、緩急をつけたプレゼンで観客を魅了しました。また、ミクロな分子構造の化学の話から、動物行動、さらには化石や進化の話まで、様々なスケールの科学が毒というキーワードの下に凝集しており、非常に学際的な研究であることが印象に残りました。

 

 

[質疑応答]

質疑応答では、異分野間のコミュニケーションらしい議論が繰り広げられました。特に白熱したやりとりを紹介します。

Q. 北先生の研究は、医療関係に役立つのでは?

A. 新規な毒の化学的な解明は、薬理学や、神経学などの基礎研究に寄与し、さらには、痛みに関する創薬にも繋がる。

Q. 毒を持っている動物が、自分の毒が効かないのはなぜか?

A. タンパク毒は、自分自身の毒が血液中に入ってしまわないようになっている。逆に血液中に入ってしまえば死んでしまう。トガリネズミが共食いする際、相手の毒で死んでしまうこともある。

 

 

[種明かしディスカッション]

種明かしディスカッションのコーナーでは、プレゼン発表の極意や、気を付けていることなどを教えてもらったり、根掘り葉掘り質問攻めにするコーナーです。毎回、目からうろこの情報ばかりですが、これは実際会場に来て聴講した人の特権ということで、ここでは公表しません。

 

 

◆手塚太郎先生  「疎性に基づく情報処理」

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[プレゼン発表]

手塚先生は図書館情報メディア系の先生です。あの有名な、「やってみよう研究所」の所長でもあります。今回は、コンピュータサイエンスの世界で話題となっている、「疎性に基づく情報処理」について発表されました。

コンピュータサイエンスの究極の目標は、コンピュータに人間と同じ思考をさせることだと手塚先生は言います。そのため、人間を含めた生物の情報処理の仕組みが解明されると、その仕組みがコンピュータサイエンスに応用されることが多いそうです。「物事を認識する」、という一見コンピュータにとって複雑で困難な課題も、生物がやっている方法から学びとることで、克服することができます。その一つの例が、生物の神経系における「疎性」と呼ばれる性質の、コンピュータの情報処理への応用です。

手塚先生はまず、生物が物事を認識する際の、神経系の仕組みを非常に明快に説明されました。我々生物の脳の中には、ネットワークで繋がった沢山の神経細胞が存在しています。ある一つの認識に対する情報処理過程には、これらのネットワーク中の“数多く”の神経細胞が関与していると想像できるでしょう。しかし実際には、“少数の”(疎らな)神経細胞だけが活動しているそうです。これが「疎性」と呼ばれる性質です。このように、神経系が「疎性」的な活動をするメリットは、蓄えられる情報量の増加や、省エネ等が考えられるそうです。

そしてこの「疎性」的な仕組みを、コンピュータの情報処理に応用することができます。

例として、コンピュータによる画像処理を紹介されました。コンピュータで扱うデジタル画像を、数学のベクトルで表現します。その際に、多くのベクトル成分がゼロとなるように情報を扱うことで、生物系でみられる「疎性」な情報処理が可能になります。このことが、膨大なデータを処理する際に、計算コストを下げることが可能になるそうです。

手塚先生は、テンポよくリズミカルな発表をされ、話の流れが非常に明快でした。また、誰よりも楽しそうに発表されるため、研究のおもしろさが存分に伝わってきました。

 

 

[質疑応答]

質疑応答では、異分野間のコミュニケーションらしい議論が繰り広げられました。特に白熱したやりとりを紹介します。

Q. 手塚先生は、「人間の脳とコンピュータは同じである」というが、同じリンゴであっても、鮮度の違いなど、それぞれの質感みたいなものがあるので、こういった感覚はコンピュータでは捉えられないと思う。つまり、人間の脳をコンピュータで再現することは難しいのでは。(教育学専攻の大学院生)

A. それは単に、コンピュータが質感を学習できていないからである。学習させることができれば、リンゴの鮮度も判断できると思う。赤ちゃんも生まれていきなり「おばあちゃん」を認識するわけではない。

Q. しかし、人間の脳には個人差みたいなものもあるので、これらはコンピュータで捉えられないのでは。(教育学専攻の大学院生)

A. 最近インターネット上で学習する人工知能が開発されている。この方法なら、非常に多くのことを学習可能であるので、コンピュータが質感や、個人差みたいなものも理解する日が来るかもしれない。

 

人間の脳VSコンピュータ、というとても刺激的な討論になりました。

この議論に関する手塚先生の立場がhttp://yattemiyou.net/archive/machines.htmlに代弁されていると思いますのでこちらもご覧下さい。

 

 

[種明かしディスカッション]

種明かしディスカッションのコーナーでは、プレゼン発表の極意や、気を付けていることなどを教えてもらったり、根掘り葉掘り質問攻めにするコーナーです。毎回、目からうろこの情報ばかりですが、これは実際会場に来て聴講した人の特権ということで、ここでは公表しません。

 

(文責:尾澤岬)