教員プレゼンバトル2013 第六回講義概要

◆丹羽隆介 先生 「母から子へと与えられる栄養の底力〜ショウジョウバエを用いた研究から〜」

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丹羽先生は発生遺伝学を専門に研究なさっている先生です。今回は、母から子へ伝わる遺伝の研究を、ショウジョウバエを例にわかりやすく紹介してくださいました。

生き物の体は、食べ物を食べ、消化し、栄養を吸収し、排出する、というサイクルを必要としています。このサイクルは代謝と呼ばれます。代謝は非常に複雑で、代謝をコントロールしているタンパク質に異常が生じると、重篤な病気を引き起こすケースがあります。そのため、代謝の研究は病気の原因を解明するための足がかりとして期待されています。

丹羽先生は、代謝の研究のモデル生物として、遺伝子がヒトとよく似ている黄色ショウジョウバエに着目しました。ショウジョウバエの発育にはコレステロールの代謝が必要で、コレステロールはNeverlandと呼ばれる酵素によって7−デヒドロコレステロールに変化し、最終的に成長に必要不可欠なステロイドホルモンへ変化します。丹羽先生は、Neverlandが欠乏するとショウジョウバエが成長できなくなることを明らかにしました。Neverlandが欠乏した母親が子供を生んだ場合、生まれた幼虫はNeverlandが欠乏するという情報が伝わってしまい、成長することができなくなってしまいます。

さて、Neverlandを欠乏したまま生まれてきた幼虫はこのまま一生を終えてしまうのでしょうか?この仮説を打破したのは、ずぼらな大学院生でした。その大学院生は、7−デヒドロコレステロールを混ぜたえさを与えたまま、数日ほったらかしにしていたそうです。後で調べてみると、Neverlandが欠乏した幼虫が成長していることが偶然わかりました。この発見を機転にいろいろと調べてみると、Neverlandが欠乏した親にえさを食べさせた場合でも、生まれてきた子供が成長できることが分かりました。これぞまさに「親から子へ伝わる栄養の底力」なのです。

代謝や遺伝の研究はモデル生物で行うことが多いが、得られた知見が必ずしもヒトに当てはあるものではないため、そこをどう解決していくかが大事であるとおっしゃっておりました。今後のご活躍に期待したいですね。

 

[質疑応答]

質疑応答では、異分野間のコミュニケーションらしい議論が繰り広げられました。特に白熱したやりとりを紹介します。

Q. (生物学専攻の大学院生)Neverlandが欠乏したショウジョウバエは、幼少のころ餌を摂取させると成長するということですが、ヒトのコレステロール欠乏症の場合でも同様の効果が期待できるのでしょうか?

A. その通りです。一般的な治癒はコレステロールを大量摂取します。しかし、生存期間を延長できても、生体の表現系は変えられません(指が6本になるなど)。また、母体に対してケアする方法もやられていません。なぜなら親は遺伝病を予測できないからです。近年では遺伝子診断で解決できる可能性は高まっています。昆虫の研究が哺乳類に対して反映されるかは未確認です。

Q. (コンピュータサイエンス専攻の大学院生)ショウジョウバエの研究結果をヒトにそのまま当てはめると。ヒトの場合7~8年寿命をのばすことになるとおっしゃっていましたが、本当にそうなるのでしょうか?

A. 詳細はまだよくわかっておりません。哺乳類は胎盤から栄養素が伝わりますが、とても特異的に選別されるため、親のコレステロールがそのまま伝わるとは言えません。また、ショウジョウバエの母体から子への栄養の伝搬過程もよくわかっていないのです。現在実験中で今後明らかにしていきたいです。

[種明かしディスカッション]

このコーナーは、プレゼン発表の極意や気を付けていることなどを伝授してもらいます。毎回、目からうろこの情報ばかりですが、これは実際会場に来て聴講した人の特権ということで、ここでは公表しません。

 

◆松本末男先生 「「ことばを育てる」~特別支援教育から~」

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松本先生は筑波大学付属学校教育局の先生で、言語指導を専門に研究なさっています。教員プレゼンバトルに参加するために筑波キャンパスまでお越しいただきました。今回は、特別支援教育が必要な子供たちどのように言葉を教えるか、言語教育に関する生のお話をしてくださいました。

耳が聞こえない人にとっての最大の苦悩は、言語を習得するのがものすごく困難になることです。そのため、聴覚障害の人の中でしゃべれない人も多くいます。しかし、現実には聴覚障害者で普通に社会人として働いている人もいます。この差はどこから生まれるのでしょうか?答えは言語教育です。聴覚障害の子供に日本語をきちんとはなせるように教育することで、結果的にコミュニケーションがとれるようになります。

しかし、自閉症の子供へ言語を教えることはもっと厄介です。自閉症の子供は耳が聞こえるが、発言出来ない場合があります。自閉症の子供にコミュニケーションをとらせる術はあるのでしょうか?やはり答えは言語教育にありました。自閉症の子供たちに話し言葉があれば自分の意志表現が可能なことを気づかせてあげることが重要です。そのためにも、周囲の人々が子供の様子を注意深く見てやることが大事であるとおっしゃっていました。

松本さんは聴覚障害や自閉症の子供に言語を教えてきた経験から、その言語教育の方法はどちらも同じなのだと結論づけていました。詳しい内容は割愛させていただきます。最近では障害者への関心が薄まっている傾向にありますが、皆が豊かに暮らせるためにも、障害者への関心は日頃から持っておくべきだと松本さんは強く願っていました。

 

[質疑応答]

質疑応答では、異分野間のコミュニケーションらしい議論が繰り広げられました。特に白熱したやりとりを紹介します。

Q. (人文学専攻の大学院生)聴覚障害や自閉症の子供にとっても話し言葉は大切だとおっしゃっていましたが、松本さんの教えている技術で、どの程度まで話せるようになるのか?

A. 以前教えた聴覚障害の子供では、国立大学に在籍し、会社員や教員をしていました。いずれにせよ、聴覚障害者に関しては社会でふつうに過ごせる力は養うことができるでしょう。一方、自閉症の子供は自分の思いをしゃべれるようになる程度で、まだまだノウハウが不足しているのが現状です。

[種明かしディスカッション]

このコーナーは、プレゼン発表の極意や気を付けていることなどを伝授してもらいます。毎回、目からうろこの情報ばかりですが、これは実際会場に来て聴講した人の特権ということで、ここでは公表しません。

 

 

◆土井裕人先生  「宗教思想をいかに捉え、考えるか」

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土井先生は宗教学を専門に研究なさっている先生です。今回は、宗教思想をいかにして捉えるかということに関して、お話ししてくださいました。

研究テーマは西洋古代の宗教思想についてです。そもそも宗教というものに学術性があるのかというところから話は始まり、宗教研究の難しさを訴えていました。しかし、古くから宗教は人間の根幹に関わっているため、その源流を問い直すことに非常に意義があると力説しておりました。まず神に似ることというテーマに基づいたプラトン主義が広まり、そのテーマを魂の乗り物という形で具現化する新プラトン主義が続きました。このような思想は現在まで語り継がれてきましたが、実際はあまり理解されていないのが現状です。土井先生は思想研究にも新展開が必要だと考え、コンピュータを利用して思想を可視化することに挑戦しました。文献をD3.js力学モデルを用いて解析し、得られたマッピングデータで思想を可視化するというものです。しかし、実際にはデータの解釈で議論が絶えず、可視化は非常に難航しているそうです。

土井先生は、宗教学を新しく切り開いていくテクノロジーを開拓していきたいとおっしゃっていました。私を含めほとんどの筑波大生は哲学になじみがないでしょうから、とても新鮮なプレゼンだと感じました。この感覚を毎回味わうことができる授業はおそらく教員プレゼンバトルだけでしょう。

 

[質疑応答]

質疑応答では、異分野間のコミュニケーションらしい議論が繰り広げられました。特に白熱したやりとりを紹介します。

Q. (生物学専攻の教員)思想の視覚化について、作業はテキストベースの言葉を抽出して、その関係を重みづけして、グラフ化するというものです、英文学でやられていることと本質的に一緒だと思います。思想の視覚化と表現されるのは妥当なのか?

A. おっしゃる通り、作業は一緒に見えます。しかし、思想研究として見たうえでどう役立たせうるのか、それをやってみたい。

 

[種明かしディスカッション]

このコーナーは、プレゼン発表の極意や気を付けていることなどを伝授してもらいます。毎回、目からうろこの情報ばかりですが、これは実際会場に来て聴講した人の特権ということで、ここでは公表しません。

 

(文責:栗之丸隆章)