◆ 麻見直美 先生 「 體 」
麻見先生はスポーツ栄養の研究をなさっています。骨の代謝に対する運動と栄養の影響を、研究室でお持ちのデータを中心にご紹介いただきました。
骨は大人になっても常に作り替えられている、ダイナミックな臓器であり、様々な要因が関わってきています。
そのなかでも特に運動が骨に良い影響があるとされています。動物(ラット)を使った運動負荷実験の結果からも運動の骨への影響は明らかです。
運動が走行運動でも水泳運動であっても骨密度を上げることが分かっているようです。
人間のデータでも運動の骨への影響は明らかです。平均よりも骨密度が高い人は、活動量が多い事もわかっています。適切な運動は骨密度を高めるのです。
しかし、アスリート(運動をしている人)でも骨密度が高い人と普通の人がいるそうです。その原因を探るために、食事バランスガイドを用いて食
骨密度が高い人は食事のバランスが良く、骨密度の普通の人はのバランスが悪いことがわかりました。
アスリートにおける骨密度の違いは食事バランスの違いによるものだったようです。自身のからだは自身の食べた者でできています。適切な運動と食事が骨を豊にし、からだをつくるのです。
質疑応答でのやりとりを1つ紹介します。
Q、栄養のバランスとは人によって違うのではないのか、どのように栄養状況を評価しているのか。(システム情報系の教員)
A、正確に評価することは現実的には難しい。栄養状況を正確に判断できる指標はまだ確立できていない。血液が1つの指標であるが、アスリートだと血液等で栄養状況を評価するのは難しい。骨を評価することで集大成的な評価が出来る。
(文責:角谷雄哉)
◆ 外山美樹 先生 「悲観主義って本当に悪いの?」
外山先生のプレゼンはチェック票への記入からはじまりました。
チェック票を使ってベストを尽くしたいと思う状況を思い浮かべて、
その状況であなたがどういう準備をするのかを聴衆に回答さたのです。
このチェック票は、たぶんうまくいくと思っていてもまずは最悪の状況を予想する「防衛的悲観主義」を見極めるためのものだそう。
これまでは、楽観主義者が悲観主義者と比較して、動機付けが高いやパフォーマンスが高いとされてきた。しかし、外山先生は絶好調期のイチロー選手の名言をもとに悲観主義でも高いパフォーマンスを発揮することは可能だといいます。
特に、「防衛的悲観主義」に関する研究をなさっているそうです。
防衛的悲観主義者はどのようにパフォーマンスを高めているのでしょうか。ダーツのパフォーマンスにかんする研究が紹介されました。防衛的悲観主義者はダーツの前に成功したところをイメージさせたり、リラックスさせたりするよりも、失敗している状況をイメージしたときにパフォーマンスが高まるのです。
このことは、ダーツだけではなく他の方法でパフォーマンスを測定しても同じことが言えるそうです。
スライドのデザインが美しく、プレゼンもそれに合わせて流れる様にすすめられました。スライドの凝ったアニメーションに対しては歓声が上がるほどでした。外山先生はデザインなども独学で学ばれ、スライド作りに活かされているようです。今回のパフォーマンス(プレゼン)に対して、先生自身は防衛的悲観主義だったのでしょうか。
質疑応答でなされたやりとりを1つ紹介します。
Q、何歳くらいから決まってくるのか、外的要因はなんなのか。自分の意識で替えられるのか。
A、中学生や小学生高学年では確立している。外的要因としては様々なことが関わっている。人によって違うのではなく、行動(パフォーマンス)によって考え方がちがう。ある行動に対する、方略・方法のことを拾っている。
(文責:角谷雄哉)
◆ 松島亘志 先生 「イトカワから考える固体粒子系物理」
[プレゼン発表]
松島先生は、システム情報系で粒状体力学・地盤工学を専門に研究している先生です。今回は、以前話題となった衛星「はやぶさ」が持ち帰った小惑星「イトカワ」の“粒子”に関する研究を紹介されました。
小惑星イトカワの表面は、ゴツゴツした岩塊のイメージがありますが、度重なる隕石の衝突によって細粒化した粒子がたくさん存在します。はやぶさ計画では、この粒子を回収することに成功したことで、大きく盛り上がりました。
はやぶさが回収した飼料は、国内外の様々な研究グループによって解析されましたが、松島先生は、「粒子の大きさや形状」に着目する研究を行いました。
解析で分かったことは、イトカワの粒子の大きさの分布は、「フラクタル」を示すということでした。言い換えると、イトカワの表層の写真を、様々な長さの尺度で撮影しても、どれもそっくり同じに見えるということです。
実はこのフラクタルという性質は、イトカワの表面の粒子だけでなく、月や地球上の粒子の大きさ分布など、様々な所に顔を出す、とても普遍的なものだそうです。このことは、隕石が衝突して、細粒化される際のプロセスの類似性を示唆します。
しかし、イトカワと月や地球の粒子では、同じフラクタル性を示しても、フラクタルを特徴づける数字がわずかに異なっているそうです。そして、この辺りの微妙な違いが、今後に向けて興味を駆り立てる研究対象なのだそうです。
イトカワの表面という壮大な宇宙での出来事が、地球上での身近な出来事と、フラクタルという性質でみごとに繋がった瞬間、とてもぞくぞくしました。本研究は、学術的にも非常に高い評価を受けており、今後の研究の発展が期待されます。
[質疑応答]
質疑応答では、異分野間のコミュニケーションらしい議論が繰り広げられました。特に白熱したやりとりを紹介します。
Q. 試料の解析というと、粒子の「組成」の分析がメインだと思ってしまうが、「粒子の大きさや形」を解析することでも、いろいろと面白いことがわかるのか。(生命環境科学研究科の教員)
A. 大きさや、形状を調べるという簡単な解析でも、面白い結果は出てくる。比較的単純なルールに物事が支配されていることを反映していると思う。
Q. はやぶさが持ってきたイトカワの粒子はごく少数であったと聞いたが、実際どの程度か。(農学が専門の大学院生)
A. はやぶさが持ち帰った容器を、トントンと叩いて取り出した粒子が40個。それよりも小さくて、容器からヘラで掻き出して取った粒子が1469個。
[種明かしディスカッション]
種明かしディスカッションのコーナーでは、プレゼン発表の極意や、気を付けていることなどを教えてもらったり、根掘り葉掘り質問攻めにするコーナーです。毎回、目からうろこの情報ばかりですが、これは実際会場に来て聴講した人の特権ということで、ここでは公表しません。
(文責:尾澤岬)