◆掛谷英紀先生 「プロパガンダを工学する」
[プレゼン発表]
「プロパガンダ」とは政治やマスコミ関係でよく出てくる用語です。広辞苑で調べてみると、『特定の政治的考えを押し付けるための宣伝』という意味らしいです。それを工学するって一体どういうことでしょうか。残念ながら私には全く想像が出来ませんでした。そんな予想外なタイトルに惹かれた方も多かったと思います。思えば、「新聞やテレビなどのマスメディアは思想的に中立ではなく、ある程度のバイアスがかかっている」というような言論を耳にします。実際には誰しも感じていることだと思うのですが、なかなか説明することは容易ではありません。このいわゆる、「言論のバイアス」を機械学習という工学の手法を使って定量的に評価しよう、と目論むのが掛谷先生の研究でした。機械学習とは大雑把に言えば、膨大なデータから意味のある情報を抜き出して整理する工学の手法のことです。では、この機械学習を使ってどのように思想的バイアスが暴けるのでしょうか。掛谷先生はいくつも研究事例を挙げながら説明されました。特に興味を引いたのは、新聞に書かれた文章だけから新聞社(読売、毎日、日経など)を当てるという研究です。文章に含まれる単語の出現パターンを機械学習によって整理し、どの新聞社の文章であるのか分類しながら推論するとのことです。「まさかそんなことは出来ないだろう」、と一見感じますが、予想以上に的中率の精度は高く、いかに各新聞社の言論に思想的なバイアスがかかっているか、という事実が浮き彫りになりました。その他にも、政治家の書いた文章だけから政党を分類することさえ出来てしまうそうです。また、このような研究成果を応用して「将来は選挙支援にも役立てたい」と目標を語っていただけました。発表の仕方は明快で、文系理系を問わず、全ての専攻の方が興味を持てるように非常に工夫されたプレゼン発表でした。
[質疑応答]
質疑応答では、異分野間のコミュニケーションらしい議論が繰り広げられました。特に白熱したやりとりを紹介します。
Q. このような研究をやっていて、外部から圧力がかかったりしないか?(生命環境の大学院生)
A. 今のところは大丈夫だ。私がもっと有名になって、何か政治的なことを提言しはじめると、外部から圧力がかかってくるかもしれない(笑)。(掛谷先生)
Q. 生物の進化の過程で、種というものはどんどん分化していく。そしてそれらは系統樹として書き表せるが、掛谷先生の開発した機械学習の手法で、政党の分化や、政党の系統樹的な解析はできるか。(生物系の教員)
A. そのようなことは可能だ。例えば、選挙日が近づくと離党する議員がよく現れるが、彼らの文章を解析すれば、いつ離党するのか予測できるかもしれない。(掛谷先生)
[種明かしディスカッション]
種明かしディスカッションのコーナーでは、プレゼン発表の極意や、気を付けていることなどを教えてもらったり、根掘り葉掘り質問攻めにするコーナーです。毎回、目からうろこの情報ばかりですが、これは実際会場に来て聴講した人の特権ということで、ここでは公表しません。
◆卯城 祐司 「だから英語は面白い!」
[プレゼン発表]
◆山本洋平先生 「分子集積材料による新しい光・電子機能発現」
[プレゼン発表]
山本先生は、超分子化学という分野の研究をしている先生です。導入部では、化学が専門ではない学生も対象にして、化学とはどういう学問なのか基本的な説明をしてくださいました。誰もが「化学」と聞いて想像する原子。その原子を並べたのがあの一見無機質に見えてしまう周期表ですが、なんと山本先生は、各元素に日本のアニメキャラが描かれたイメージ破りの周期表を紹介されました。この作戦に、思わず(多くの)受講生は度肝を抜かれました。山本先生の作戦勝ちですね。お見事です。さて、化学では様々な分子を作るうえで、原子と原子の間の結合が重要な役割を果たします。とりわけ、共有結合という非常に丈夫な結合が有名です。しかし、共有結合よりももっと弱い結合でも、多様で魅力的な物質を作り出すことができるというのです。特に、山本先生が研究している、超分子とは、分子同士がゆるやかな結合で繋がった分子の集合体のことです。超分子は、結合のゆるやかさ故に、温度に応じて勝手に分子が積みあがるという性質を持ちます。その性質を最大限に用いた「自己組織化」のアニメーション映像は圧巻でした。単に、水と油に馴染みやすい両親媒性分子を溶媒の中に入れるだけで、東京スカイツリー顔負けの見事な建造物が勝手に組みあがってしまいました。山本先生曰く、これらの超分子が見せる性質を巧みに利用し、有機エレクトロ二クスに応用するのが目標だとのことです。山本先生のあっと驚くような発想による研究成果が、私たちの身近なデバイスにも使用される日が来るでしょう。そんな日が待ち遠しいですね。
[質疑応答]
質疑応答では、異分野間のコミュニケーションらしい議論が繰り広げられました。特に白熱したやりとりを紹介します。
Q. エレクトロニクスというと金属のイメージが強いが、有機エレクトロニクスは何がうれしいのか?(数理物質科学研究科の大学院生)
A. 有機分子は金属に比べて、軽くて柔らかいので非常に扱いやすい。さらに、金属を使わないということで資源の節約にもなる。(山本先生)
Q. 新しい材料を開発すると、研究の段階では無害と判断されても、後に応用されるようになってから毒性などが見つかったりはしないか。(システム情報工学研究科の大学院生)
A. 今のところない。私の研究は基礎研究に位置づけられ、応用として皆さんの生活に生かされるには、もう何ステップもの応用研究が必要だ。その間に毒性などの検証がなされるだろう。(山本先生)
[種明かしディスカッション]
種明かしディスカッションのコーナーでは、プレゼン発表の極意や、気を付けていることなどを教えてもらったり、根掘り葉掘り質問攻めにするコーナーです。毎回、目からうろこの情報ばかりですが、これは実際会場に来て聴講した人の特権ということで、ここでは公表しません。
文責:尾澤岬
渡辺先生は、進化生物学やサイエンスコミュニケーションが専門の先生です。発表タイトルは、「アニメアイドルキャラの進化生物学」ということで、プレゼン発表を聴く前からワクワクした人も多かったのではないでしょうか。では一体どんな発表内容だったのでしょうか。感想を交えながら簡単に振り返ってみたいと思います。まず導入部分で、渡辺先生は生物の進化のメカニズムについてよくかみ砕いて説明してくださいました。その中でも特に動物の赤ちゃんの形態の進化的な意義についての紹介が興味深いものでした。ヒト、イヌ、ウサギなど様々な動物の赤ちゃんは、まん丸い大きな頭、短い手足、大きな目などの、思わず、「かわいい!」と心の中で思ってしまうような身体的特徴を有しています。渡辺先生は多くの動物の胎児でこのような形態的な特徴を共有している背後には何らかの理由があるはずだと想定し、進化的な意義についての議論を紹介されました。そして、私が思わず身を乗り出してしまいそうになったのは次の展開です。渡辺先生はプレゼン発表の中で、「進化生物学の考え方は、生物の進化のみならず、我々の社会や文化の中にも見出すことができる」、と提案されました。例えば、私たちのよく知っている、ミッキーマウスや、スヌーピー、鉄腕アトム、アンパンマンなどのアニメアイドルキャラは、デビュー当時から現在まで、少しずつですが刻々と形態が変化しています。そして、これらのアニメアイドルキャラの形態の変化にはある共通の傾向がみられるのです。渡辺先生はこの傾向を、動物の赤ちゃんの形態の進化と同様の視点で理解する試みを提案されました!このような斬新な発想には、会場からどよめきが起こるほどでした。進化生物学という科学的な視点で社会や文化を見渡すことで、日常生活における物事の見方も変わってきます。また逆もしかり、日常生活の中にも、科学的対象が広がっていたということです。「視点を替えて見ることで物事の見方が大きく変わる」そのようなことを強く感じたプレゼン発表でした。
[質疑応答]
質疑応答では、異分野間のコミュニケーションらしい議論が繰り広げられました。特に白熱したやりとりを紹介します。
Q. 先生が提案したアイドルキャラの進化についての仮説は実証不可能ではないか?(医学を専門にする教員)
A. 一般に、進化は一度きりの現象なので、検証するのは難しい。進化学は、数々の状況証拠から仮説を立てる。新たに見つかった事実が仮説に合わなければ、また別の仮説へと移り変わっていく。(渡辺先生)
Q. では進化学が持つ、そのような欠点も含めてプレゼンした方がより魅了的なプレゼンになるのではないか。(医学を専門にする教員)
A. そうかもしれない。今回は、わかりやすさを重視し、欠点については言及しなかった。(渡辺先生)
実験によって、新たな知見や仮説の検証を積み重ねていく医学の分野と、本質的に実験による検証が難しい進化学、の二つの分野の相違が鮮明に浮かび上がった質疑応答内容でした。またその後も、「私の分野ならこう考える」、というような趣旨を述べる質問者も次々に現れました。間近で質疑応答を見ていた受講生のみなさんは、異分野間でのコミュニケーションの現場を体感する共に、その重要性を再認識したと思います。
[種明かしディスカッション]
種明かしディスカッションのコーナーでは、プレゼン発表の極意や、気を付けていることなどを教えてもらったり、根掘り葉掘り質問攻めにするコーナーです。毎回、目からうろこの情報ばかりですが、これは実際会場に来て聴講した人の特権ということで、ここでは公表しません。
神谷先生は、スーパーコンピュータを用いた計算科学の研究を行っている先生です。神谷先生の目指されている研究の構想は、近い将来、我々人類が直面するのであろうエネルギー問題に直結するものでした。近年、パソコンやスマートフォンなどの電子機器がますます身近なものとなり、今後もその数が増大していくことが予想されます。それと同時に、電子機器によってやりとりされる情報の量も爆発的に増えていくことになる事も明らかになっています。その負の側面として懸念されるのが、情報量の増加に伴い消費されるのであろう莫大な電力が、深刻なエネルギー問題を引き起こすのではないかということです。しかしながら、現状のIT産業の成長ぶりを見る限り、情報量の増大は避けて通れないものであると考えられます。仮にもしそうだとすると、電子機器をより省エネルギーな設計にすることが喫緊の課題となります。「どうにかして省エネな電子機器の設計を可能にしたい。」これが神谷先生の常日頃の研究のモチベーションだそうです。現在の研究の手掛かりとなった発見は、電気機器の情報を貯蓄する部分(メモリ)の消費電力のうち、結構な割合が未使用時の待機電力で占められているということでした。そこに注目した神谷先生たちは、この待機電力をできるだけ抑え、できればゼロになるような、次世代のメモリ開発に取りかかりました。そんな神谷先生たちの武器は、スーパーコンピュータを使った計算機シミュレーションです。メモリに使われる材料をミクロなレベルからシミュレーションすることで、待機電力発生のメカニズムに迫ると共に、その発生をできるだけ抑えるデザインを提案されました。省エネな次世代メモリの開発を目指した神谷先生の挑戦は、今後も続くそうです。熱意に満ちた神谷先生のプレゼン発表からは、人類が直面するとされる困難に立ち向かう科学者の生き様が感じられ、聴講された方々は「世界を変える」研究の雰囲気にドキドキしたと思います。
[質疑応答]
質疑応答のコーナーでは、異分野間コミュニケーションが活発に行われました。特に白熱した議論を紹介します。
Q. 神谷先生の新たに提案した、次世代メモリの消費電力は、従来のものに比べてどのくらい省エネになると予想できるか。(教育学を専攻する大学院生)
A. 消費電力で言って、だいたい10分の1くらいだ。(神谷先生)
Q. “どの程度省エネであるか”を身近な数値に焼き直して提示してくれるとわかりやすい。10分の1の消費電力という数値を、我々が普段使っている電気代に換算して提示したらどうか。実生活の概念に置き換えることで、神谷先生の研究成果をより身近に感じてもらえるのではないか。(教育学を専攻する大学院生)
A. それは非常に良い提案だ。勉強になった。今後に生かしていきたい。(神谷先生)
上記のように、受講していた大学院生から、神谷先生のプレゼンに対する提案がありました。研究で得られたアウトプットを、各分野の専門用語から、日常生活の言葉に変換して伝えるというテクニック。異分野コミュニケーションのエッセンスが詰まった質疑応答でした。
[種明かしディスカッション]
種明かしディスカッションのコーナーでは、プレゼン発表の極意や、気を付けていることなどを教えてもらったり、根掘り葉掘り質問攻めにするコーナーです。毎回、目からうろこの情報ばかりですが、これは実際会場に来て聴講した人の特権ということで、ここでは公表しません。
貝島先生は、「建築」という視点からまちづくりのデザインに携わっている先生です。今回の発表では、貝島先生の研究室が主導で行った、「まちづくりプロジェクト」を具体例にしながら発表されました。建築家というと、家やビルなどの個別の建物を設計する専門家、という従来イメージを持ってしまいがちですが、貝島先生曰く、「まち全体のデザインに関わる建築家」なのだそうです。まちづくりのデザインには、それぞれの地域社会の個性や特徴を生かしたものが要求されます。そのため、地域社会の中に飛び込んで、その場所の特性を知ると共に、地域住民の意向等も反映させた、個々のまちづくりが必要となります。実際に貝島研究室が主導した、埼玉県北本市でのプロジェクトは、“北本らしい”駅前広場のまちづくりを目指し、市民・地域プロデュースの専門家・行政による官民一体の体制で進められました。このプロジェクトは、駅前広場のハード面での整備のみならず、広場をどう使うか、などというソフト面の整備も平行して進められました。しかし、このようなプロジェクトには問題点も山積です。例えば、北本市のようなベッドタウンでは、昔からその地域に住んでいる旧住民と、新住民の対立構造が存在し、このことは、地域住民の意向の反映を難しくしています。そのため、お互いの意見を通わすためのワークショップの企画や提案、地域住民のふれあいの場を社会実験的に導入等、両者にとってのよりよいまちづくりの構想を深めていくという取り組みが行われています。このプレゼン発表では、普段、私たちが持っていた、従来の建築家という先入観とは異なる、広義の意味での「建築家」の社会との関わりについて知ることが出来たと思います。また、聴講された方々は今回のプレゼン発表を元に、今後のまちづくりの方向性と可能性について想いを馳せてみることが出来るようになったと思います。
[質疑応答]
質疑応答のコーナーでは、プロジェクトの理念や、直面した困難についての質問が多数ありました。印象に残っていたのは次の質疑応答です。
Q. 貝島先生が行っているまちづくりプロジェクトには、何かゴールのようなものがあるというよりは、常に変化を受け入れながら、より良い形に導いていく、というような印象を受けたが、何かプロジェクトを行うに当たって目標などはあるか。(生物資源を専攻する大学院生)
A. 確かにそうだ。何か目標があるというよりか、前の世代がその地域社会に残してくれたものを引き継いでいるという感じで行っている。つまり、リレー作業のようなイメージだ。(貝島先生)
[種明かしディスカッション]
種明かしディスカッションのコーナーでは、プレゼン発表の極意や、気を付けていることなどを教えてもらったり、根掘り葉掘り質問攻めにするコーナーです。毎回、目からうろこの情報ばかりですが、これは実際会場に来て聴講した人の特権ということで、ここでは公表しません。
文責:尾澤岬